就活をしてみようと思い、はじめてある企業にエントリーシートを提出した。「あなたの長所と短所を具体的な経験を絡めて書いてください」「あなたが学生時代に直面した困難とそれをどう乗り越えたか書いてください」などの質問に答えていく。その際、整合的でわかりやすく正の方向へ終着するような物語へと、当時の自分の経験と感情を編集して整える。

特に後者の設問は、「自分はこんな困難を経験した→このようにして乗り越えられた→困難を乗り越えることを通じてこんなに大切なことを知った→これを今後に活かしていきたい」というフォーマットが暗に要求されているという点においてアーサー・W・フランクが『傷ついた物語の語り手』で提示している「回復の語り」と酷似している。

企業が就活生の「回復の語り」にしか興味を持たず、出口のない病いの苦しみを訴える「混沌の語り」には聞く耳を持たないというのは当然だろうな、と諦めながらエントリーシートを提出する。働く上で苦しいこと、つらいことがあってもそれを前向きに捉えて乗り越えた先に何かを得るような(少なくとも、そう取り繕えるポテンシャルがあるような)労働者じゃないと扱いづらいだろうしね。わかる、わかるよ〜資本主義が全部悪いよね。